Tuesday 19th August 2025
Durbar Marg, Kathmandu

小さな我が子の額に触れた瞬間、「熱い」と感じた時の不安を覚えていますか?

私はあの夜、生後8ヶ月の娘の異常な熱に気づき、慌てて病院へ駆け込みました。

医師から手渡された薬の説明書を読みながら、胸に去来したのは「この薬、本当に飲ませて大丈夫なの?」という素朴な恐れでした。

臨床検査技師として12年間、医療現場で働いてきた私でさえ、一人の母親として子どもに薬を飲ませる決断に迷いました。

薬の安全性を知る立場であるはずなのに、わが子となると別物なのです。

この記事では、医療者であり母親である私が、どのようにして子どもの薬を「信じる」ことができたのか、その道のりをお伝えします。

医療の現場と子育ての日常をつなぐ視点から、同じ不安を抱える親御さんへのエールになれば幸いです。

第1章:不安の始まり ― 初めての小児用薬との出会い

熱を出したあの夜、手にした薬の名前

「カロナール®シロップ」—その名前は今でも鮮明に覚えています。

夜間救急で診察を受けた後、薬剤師さんから渡された透明な液体は、ほのかに甘い香りがしました。

「解熱鎮痛剤です。8時間おきに体重に合わせて服用させてください」と言われ、私は頷きながらも内心では波が立っていました。

子どもの小さな体に、この薬を入れていいのだろうか。

その夜、娘の熱に怯えながら、私は初めて「母親の責任」という重さを感じたのです。

説明書に並ぶカタカナ成分への戸惑い

帰宅して改めて説明書を広げると、そこには「アセトアミノフェン」というカタカナ成分名が記されていました。

確かに私は医療現場で何度もこの名前を目にしてきたはずです。

しかし、患者さんの検査データを見るのと、自分の子どもに飲ませるのとでは、まるで別の言葉のように感じられました。

添付文書には副作用の記載もあり、小さな文字で並ぶ「まれに」という表現にも不安が募ります。

医療者である自分と、一人の母親である自分との間で、心が引き裂かれる思いでした。

「もし副作用が出たら…」という葛藤

娘に薬を飲ませる時、私の頭の中は「もし」で一杯でした。

もし肝機能に影響が出たら?

もしアレルギー反応が起きたら?

もし将来、何か影響があるとしたら?

こうした不安は専門知識があるからこそ増幅されます。

知識が時に重荷になることを、この時ほど感じたことはありませんでした。

でも同時に、熱に苦しむ娘を前に、何もしないという選択肢もありません。

この葛藤こそが、私が子どもの薬との向き合い方を真剣に考えるきっかけとなったのです。

第2章:「信じる」ために私がしたこと

医療現場の経験を思い出す

不安に押しつぶされそうになった私を救ったのは、12年間の臨床経験でした。

薬は単なる化学物質ではなく、何層もの安全確認を経た結晶だということを、私は知っていたはずです。

検査室で何度も見てきた「品質管理」の現場を思い出しました。

  • 薬剤の有効成分が正確に含まれているかの確認
  • ロットごとの一貫性テスト
  • 安定性の長期検証データ

そして何より、多くの臨床試験を経て、厳格な審査を通過してきたという事実。

自分が信頼してきた医療システムを、母親になった今こそ信じる必要があると感じました。

薬剤師さんへの質問リスト

翌日、私は調剤薬局に足を運び、準備した質問リストを薬剤師さんに見せました。

  1. アセトアミノフェンの安全域について
  2. 小児用シロップ剤の品質試験について
  3. 家庭での保管方法と安定性について
  4. 他の解熱鎮痛剤と比較した場合の安全性

薬剤師さんはゆっくりと椅子に座るよう促し、一つひとつ丁寧に説明してくれました。

「アセトアミノフェンは、小児科領域では最も研究され、使用実績のある薬剤の一つです」

この言葉に、不思議と安心感が広がりました。

質問することで、漠然とした不安が具体的な情報に変わっていくのを感じました。

“品質試験”とは何かを調べた夜

帰宅後、私は子どもが眠った後に、改めて品質試験について調べ始めました。

知れば知るほど驚いたのは、一つの薬が市場に出るまでの工程の緻密さでした。

医薬品は製造過程のあらゆる段階で試験が行われます。

原料の受け入れ時、製造中、完成後、さらには流通過程でも品質チェックが続きます。

特に子ども用の薬は、より厳格な基準が設けられていることを知りました。

製薬会社のウェブサイトや論文を読み漁るうちに、私の中で「見えない安心」の形が少しずつ見えてきました。

薬を信じるというより、その背後にある科学と品質保証システムを信じられるようになったのです。

第3章:品質試験という”見えない安心”

子ども用薬に求められる試験の基準

子ども用の薬には、大人用以上の繊細な配慮が必要とされています。

小さな体に合わせた「さじ加減」は、科学的な裏付けに基づいて決められています。

子ども用薬に特有の品質試験には以下のようなものがあります:

1. テイスト・マスキング評価

  • 苦みを感じにくくする工夫の効果測定
  • 子どもの味覚受容体に対する研究データの活用
  • 服薬コンプライアンスへの影響評価

このような専門的な品質試験において、日本バリデーションテクノロジーズ株式会社などの分析機器専門商社が提供する高精度な分析装置は欠かせない存在です。
製薬メーカーはこうした専門機器を活用することで、より安全で効果的な小児用医薬品の開発を進めています。

2. 投与精度の確認

  • 付属の計量器具(スポイト、シリンジなど)の正確性
  • 液剤の粘度と注ぎやすさのバランス検証
  • 誤投与リスクを減らす容器デザインの評価

小児薬では「飲みやすさ」も重要な品質要素なのです。

これらの試験は、薬の開発段階から市販後まで継続的に行われ、子どもの体と心を守るバリアとなっています。

小児薬ならではの安定性・溶出性の工夫

子ども用のシロップ剤や懸濁剤には、特別な安定性の工夫が施されています。

病院の検査室で働いていた頃、薬剤部と共同で行った安定性試験を思い出します。

子ども用薬には次のような特徴があります:

  • 光や温度による分解を防ぐ遮光容器の採用
  • 微生物汚染を防ぐ防腐剤の厳選(刺激の少ないものを選定)
  • 効果を損なわずに飲みやすくする味付けと安定剤のバランス

「子ども用薬の開発では、有効性と安全性だけでなく、投与しやすさという視点が欠かせません。親と子の両方に寄り添う設計思想が求められるのです」
—ある製薬会社の研究者の言葉

溶出性についても、子どもの消化吸収能力を考慮した設計がなされています。

大人と子どもでは胃液のpHや消化酵素の量が異なり、それに応じた製剤設計が必要なのです。

医療者側が伝えるべき”安心の中身”

医療従事者として過ごした経験から、私が痛感するのは「伝え方」の重要性です。

親の不安に寄り添った説明が、薬の受け入れを大きく左右します。

医療者が伝えるべき「安心の中身」とは:

  1. なぜその薬が選ばれたのか、他の選択肢との比較
  2. 想定される効果と、それが表れるまでの時間的見通し
  3. 注意すべき副作用と、それが起きた場合の対処法

これらの情報は、単なる「説明責任」ではなく、親子の治療参加を促す大切な架け橋です。

医療者と親が同じ目線で子どもの健康を見つめるとき、薬はただの「物質」から「癒しの道具」へと変わるのだと思います。

第4章:現場の声と母としての実感

在宅看護の現場で見た”薬の扱われ方”

調剤薬局に転職してから、在宅医療の現場に立ち会う機会が増えました。

そこで目にしたのは、薬と家族の多様な関係性でした。

ある日、訪問先のお宅で目にした光景が今でも心に残っています。

小児喘息の5歳の男の子のお母さんは、カレンダーに薬の服用スケジュールをシールで貼り、子どもと一緒に「薬のゲーム」として取り組んでいました。

吸入器を使うたびに、息を止める時間をカウントダウンする様子は微笑ましいものでした。

一方で、別の家庭では薬の時間になると親子で緊張感が走り、まるで「戦い」のようになっていることもありました。

同じ薬でも、扱い方によってこれほど異なる風景が生まれることに、私は新たな気づきを得ました。

薬の効果は化学反応だけではなく、それを取り巻く人間関係にも左右されるのです。

服薬指導の工夫と、すれ違うコミュニケーション

薬局での服薬指導を通じて、親と医療者の間に生じるすれ違いをよく目にしました。

医療者側が伝えたい「正確な情報」と、親が求める「具体的な安心」には、しばしばズレが生じます。

例えば、抗生物質について説明する際:

医療者の説明:「1日3回、食後30分以内に服用してください」
親の本当の疑問:「うちの子が薬を吐き出したらどうしよう?」

このすれ違いを解消するには、医療者側の想像力と、親の側の素直な質問が必要です。

私は薬剤師の同僚たちに、次のような服薬指導の工夫を提案していました:

  • 「もし飲まなかったら?」という質問を先取りする
  • 実際に計量器具を使って見せる実演指導
  • 家庭での具体的なシーンをイメージした説明

薬の正しい知識は、温かなコミュニケーションに乗せて届けてこそ、真の安心につながります。

「母親の気持ちも、薬と一緒に届いてほしい」

薬剤師として働く中で、印象的な言葉をいただいたことがあります。

「薬だけじゃなく、あなたの安心した表情も一緒に持って帰りたい」

これは小児ぜんそくの男の子を育てるシングルマザーの言葉でした。

彼女は薬の説明を受ける時、私の表情や声のトーンまで注意深く観察していたのです。

「あなたが自信を持って薬の説明をしてくれると、私も自信を持って子どもに薬を飲ませられる」

この言葉から、薬は単なる化学物質ではなく、医療者の自信と親の安心が重なって初めて「治療」になることを学びました。

薬の品質は工場で作られますが、薬への信頼は人と人との間で育まれるのです。

わが子の病気と向き合う親の心に、私たち医療者の「大丈夫」という気持ちも一緒に届けたい—それが今の私の願いです。

第5章:それでも迷うあなたへ ― 信頼の育て方

一つずつ「なぜ?」に向き合う

子どもに薬を飲ませることに不安を感じるのは、親として当然の感情です。

その不安をなくすのではなく、それとどう付き合っていくかが大切だと私は考えています。

心の中に湧き上がる「なぜ?」は、実は大切な親としての直感です。

「なぜこの薬なのか?」
「なぜこの量なのか?」
「なぜこのタイミングなのか?」

これらの疑問は、一つひとつ丁寧に向き合う価値があります。

私自身、娘の薬について感じた疑問をノートに書き出し、医師や薬剤師に尋ね、調べることで少しずつ答えを見つけていきました。

疑問を持つことは不信ではなく、より深い理解への第一歩なのです。

疑問から始まる理解のプロセス

  1. 疑問を具体的な言葉で表現する
  2. 信頼できる情報源を複数確認する
  3. 医療者に率直に質問する
  4. 得た回答を自分の言葉で咀嚼する
  5. 疑問が解消されたかどうか正直に振り返る

このプロセスを繰り返すことで、薬への理解は深まり、不安は具体的な知識に置き換わっていきます。

自分の”信じる軸”を持つこと

情報があふれる現代社会では、矛盾する情報に出会うことも少なくありません。

SNSでは「薬は危険」という意見もあれば、「薬に頼らないのは無責任」という意見もあります。

そんな中で大切なのは、自分自身の「信じる軸」を持つことです。

私の場合、その軸となったのは次の3つの視点でした:

1. 科学的根拠の確かさ

  • 研究データの質と量
  • 臨床経験の蓄積
  • 専門家間のコンセンサス

2. 子どもの個別性の尊重

  • 過去の薬への反応パターン
  • 体質や体調の変化
  • 子ども自身の受け入れ具合

3. 親としての直感と観察

  • 薬を飲ませた後の細かな変化
  • 子どもの不調サインへの敏感さ
  • 「何かおかしい」と感じる感覚

これら3つのバランスを取りながら判断することで、他人の意見に翻弄されず、自分なりの信頼を築いていくことができます。

大切なのは「選ぶ」ことではなく「納得する」こと

最終的に私が辿り着いた結論は、「完璧な選択」を求めるのではなく、「納得できる選択」を目指すということでした。

医療に絶対的な正解はなく、それぞれの親子に合った「最適解」があるだけです。

納得するためのポイントは:

  • 十分な情報を得ること
  • 複数の選択肢を知ること
  • 決断した理由を自分の言葉で説明できること

娘が3歳になった今、私は薬を与える時、もはや震える手はありません。

それは薬への不信がなくなったからではなく、「この子のため」という目的と「この薬で良い」という納得が、不安よりも大きくなったからです。

「納得は、不安を消すものではなく、不安と共に歩む勇気をくれるものです」

これは私の経験から言える、子どもの薬との向き合い方です。

まとめ

子どもに薬を飲ませることへの不安は、親であれば誰もが感じるものです。

私は医療従事者としての知識があっても、一人の母親として同じ不安を抱えました。

しかし、その不安を出発点に、薬の品質試験や安全性を深く知ることで、少しずつ信頼を築いていくことができました。

大切なのは、漠然とした不安を具体的な疑問に変え、一つひとつ向き合っていくプロセスです。

薬を「飲ませる」という一方的な行為から、薬を通じて子どもの健康を「守る」という能動的な姿勢へ。

この変化が、私にとっての「信じる」ということでした。

子どもに薬を飲ませることに不安を感じているなら、それはあなたが責任ある親だという証です。

その不安を否定せず、知識と経験を重ねていくことで、あなたなりの「納得」が必ず見つかるはずです。

薬を知り、子どもを知り、そして自分自身を知ること—それが私の見つけた「信じる道」でした。

医療者であり母である私からのメッセージが、同じ不安を抱える方々の小さな灯りになれば幸いです。

最終更新日 2025年7月24日

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